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宗像市S邸
仕様
設計期間 | 2004.07-2005.08 |
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施工期間 | 2005.09-2006.03 |
構造規模 | 在来木造・2階建 |
敷地面積 | 226.15平米 |
建築面積 | 71.70平米 |
延床面積 | 110.12平米 |
2006年三月竣工の、福岡県宗像市の物件です。
お施主様のご厚意で完成見学会を行ないました。あいにく当日は曇り空だったのですが、他のものより詳しく撮影をさせていただきました。他の案件と共通する部分もありますのでご覧になってください。
ご案内させていただく感じで並べてみました。
●お施主さんより●
偶然ホームページを拝見して、お会いして、ぜひ江藤さんにお願いしたいと思い、土地から探して出来上がった家です。
坪数としては広くないのですが、仕切りが少なく、家全体がワンルームのような感じで、のびのび暮らせます。それでいて個々のスペースは確保できているし、収納も有り余る程。さすが女性ならではのデザイン!
初めて来られた方は間取りや作りに新鮮さを感じられるようですが、土間があって、吹き抜けがあって、土壁に木と、私達が昔住んでいた田舎の古い家を思い起こさせるものがあり、とても懐かしく、初日から何の違和感も無く暮らしています。これも、江藤さんが私達の思いをよくわかってくださって実現したもの。何度もお話をしながら家づくりが出来て本当によかったと感謝しています。
家の基本的な性能に関しては、これから1年過ごしてみて実感してくると思うのですが、家の何処にいても同じ空気を感じられる快適さには驚きました。そして、紙や木や土の素材も優しくいかしてあり、キズのひとつひとつもいとおしくなるくらい。だんだん年を重ねるたびに、私達にも子供達にも懐かしい家になりそうです。
●お施主さんより●(2007.03)
さて、我家はこちらに引っ越して来て1年が経ちました。
もうすっかり家にも宗像にも馴染みきって、4月からは近所の組長だの子供会の会計だのを仰せつかり、リビングは子供会役員の集会に重宝しています。
この冬は暖冬ということもあったのだと思いますが、暖房は1階の遠赤ストーブ1台で乗り切る事ができました。
電気代ももちろん昨年より断然少なく、オール電化のセールスに来た九電工の営業さんも結構あっさり帰ってしまうくらい。
また、寒い日でも底冷えしないというか、以前のマンションのような床下から全体が冷えてくる感じがしませんでした。
そして乾燥しすぎるのではないかと心配されていた湿度ですが、部屋の中の空気はコンスタントに60%前後あり、加湿器の出番もありませんでした。もちろん結露なんてお風呂場くらいで、冬もとっても快適!
この1年、はじめて家の中に入って来た人はとりあえず皆「面白い」とか「洒落た作り」だとか「木の香りがいい」とか
褒めてくれたのですけれど、隣の家の外壁塗装をするからと挨拶に来られた工務店の方が門のところで「いい木使ってますねえ」としきりに感心して帰られたり、門扉の修理に来てくださった年配の左官職人さんが、「いいねえ、いいねえ、」と壁だの間取りだのをいちいち褒めながら、しばらく眺めてから帰られたりと、家づくりを良く知ってらっしゃる方々に褒められると、すごく嬉しくて、やっぱりこの家で良かったナァと実感しました。
(子供達によると、おうちの1歳の誕生日なのだそうで、何はともあれケーキが要るのだそうです。)
■外観
福岡県宗像市の中心部にほど近い小高い丘の上に建っています。
左に見えるお隣のお宅との高低差から、二階からの眺望をご想像いただけるでしょう。通気も問題のない立地です。
さて、実はこのお宅、お施主さんのご意向でかなり大胆なデザインになっています。最初の写真から右奥に回りこんで撮ったのが、二番目の写真ですが、その特色がおわかりいただけるでしょうか?
うろうろ撮影していたら、後ろからワンちゃんからの怪訝な目線…。
下は正面から。
実はこちらのお宅には玄関がありません。かねがね、土間があって玄関を特別定めない住まいっていいよナ~、と思っていたのですが、お施主様のご理解をいただいて実現しました。
今回のプランでは、お施主様の中でかなり明確なご希望とその優先順井が、すでに決まっていました。ご自身たちの暮らしのなかで必要なものとそうでないものとをはっきりと理解なさっているということが、家づくりの際にもよい結果をもたらすようです。
上の写真、左端に見えるのは「天水尊」雨水タンク250Lです。
さて、左にこれからが楽しみなガーデンスペースを見ながら、正面右端のテラス窓から室内に入ってみましょう。
建物内に入って左側は土間になっています。大きな開口部から太陽の光を十分に取り入れながら、外部と室内との間の緩衝材となるスペース。また、パッシブデザインでいうダイレクトゲインを、この南側いっぱいに広がる土間が実現してくれます。上二枚はその様子。右側の写真中央に見えているのはテーブルで、この家のメインとなるリビングスペースです。曇りの日でしたが、ちょうどいい感じに光が入っています。
土間の一番奥まで進んで、振り返って撮ったのが右の一枚です。さっき立っていた場所で背中にしていた下足箱が、今度は正面に見えています。
下足箱の左側にはクロゼットもあります。造りつけの家具とリビングのテーブルも、全て大工さんが作ってくれました。材料は大分県上津江村の杉、巾はぎ材ではありますが、棚板まですべて無垢です。下がその写真。
さて、もういちど振り返って(目が回りそうですね、すみません。)さきほどちらと見たリビングのほうへ目線を戻します。
メインのテーブルは奥様がモジュールにこだわった450mm幅のテーブルです。三つに分け、それぞれ独立して使うことができます。
奥に見えているのはたたみコーナー。ちょっと変わった作りになっているの、わかりますか?
■たたみコーナー
押入を浮かせて四畳半の空間にたたみを六畳敷いています。こうすることで部屋を広く感じることも、使うこともできます。またその奥の壁面に小窓をもうけ、採光、通気に役立てることができました。写真でもお分かりいただけると思います。
2枚目は押し入れ側から見たたたみコーナーの全景。右の写真のように、スクリーンでリビングとの間を仕切れるようになっています。
リビングに戻ってみます。 上の写真のテーブルの一番奥あたりから振り返ると、下の写真のように見えます。正面右は階段。左は階段下の収納スペースです。
右下がその写真ですが、階段は一番下まで空間を作っています。写真で言えば、左のドアから入って、右に見える階段の一番下までもぐりこめます(“かたつむり収納”と名づけました)。
左隅にちらりと見えているのがさっきのたたみコーナーの小窓。右側に見える棚はパソコンデスク。 もぐって階段下へ…
■階段から二階へ
では階段から二階へ上がってみましょう。奥に寝室を見上げつつ、上がっていきます。
階段を上がって振り返るとこんな感じです。 段板は工務店さんの大サービス。集成材での設計でしたが、杉の無垢板、厚さ4cmもあります。表面は「うづくり」なのでノンスリップもいりません。「うづくり」とは木材表面にブラシを何度もかけて年輪を際だたせる加工です。
二階に上がると、正面に通気と採光のための窓が見えます。この窓のこと、ちょっと憶えておいてください。その手前は吹き抜けになっていて、リビングを見下ろすことができます。下の写真のような感じです。
階段を上がって右手にある寝室に入ります。 寝室から、さきほどリビングを見下ろしたスペース(家事・趣味コーナーです)を振り返ったところがこの写真。
■寝室
節目の目立つ壁面に、この家の特徴のひとつが見られます。二階のプライベートルームはこれが仕上げです。 これは国産の杉でできた構造用合板です。柱の間に挟まるように収まっていて、これが筋交いのかわりに横からの力(地震力・風圧力)に抵抗してくれます。
通常ならこの上にせっこうボードを下地として張り仕上げていくのですが、お施主様のご希望でこうなっています。無駄なところは徹底して省くのも、ひとつの考え方ですね。施工担当の方から「これでいいの?」と何度も確認されました。
寝室のベランダからの眺望。高台からの眺めを毎日楽しめます。
寝室にはロフトがあります。
ベランダとは反対側の眺望もなかなかです。ロフトの下に見えている小さな窓から、です。 夏はよい風が通りそうですね
右端に少し見えているのは先ほどのベランダに出る窓ですが、正面の細い扉を開くと、吹き抜けの上に出られます。憶えてください、とさっきお願いした窓を開閉したり、ガラス磨きをするための通路です。キャットウォークといいます。
吹き抜け上の窓とキャットウォーク。
上の写真を撮影したのは、吹き抜けを挟んで寝室とは反対側にある子どもスペース。障子の小窓から、リビングの吹き抜けの空間と繋がっています。写真右のほうに見えている梯子はロフトに昇るためのもの。その左に見えている棚は寝室への通路に付けたもので、通路であると同時に、吹き抜けを望む家事・趣味コーナーになっています。寝室手前で階段とも繋がっており、階下へ降りられます。
こちらも寝室同様のロフトです。
これがさっきの家事趣味コーナー背面の棚です。
一階に降りて、吹き抜け窓とキャットウォークを下から見上げてみました。
■再び一階へ
さて再びリビングに戻ってきました。
階段の途中から見ると開口部の広さと解放感が感じられます。
テーブルの右側には、畳コーナーから延びてきたたたみ敷きの部分があり、家族で過ごすのに格好の腰掛けスペースとなっています。見学会に来て下さった皆さんも自然とここでひと休みとなり、和んでいっていただきました。
ところで、実はこのスペースのさらに右奥、障子の向こう側には、小さな部屋がもうけてあります。奥様の陶芸の作業場。撮影のための引きがとれず、写真でご紹介できないのが残念ですが、こじんまりとして日当たりがよく、気持ちよく作業に集中できそうな場所になりました。しかも障子を開くとお子さんの様子もかいま見られるようになっています。
■水まわり
階段から見てリビングの左側、さきほどの陶芸スペースの逆側がキッチンになります。 リビングを見渡せ、かつ生活の諸々はリビングからは見えないように適度にクローズした空間になっています。 流し台も設計しています。作ったのはこれも大工さんです。
こちらが浴室。
浴室から脱衣場を通して、奥に見えるのがキッチンです。下は脱衣場横の洗面台。
所々に挿入してきたアイアンの小物たち、実はこちらで準備したものではなく、奥様がご自分で探してみえたものです。とてもかわいらしくセンスがいいですね。
■その他細部について
いよいよこのご紹介も終盤に近づいて来ました。ここからは細かな工夫について少し触れたいと思います。
まずは脱衣場やトイレなど扉の下。写真のように、換気のための隙間をもうけてあります。
このお宅ももちろん24時間換気をしていますが、ダクトを使ったシステム換気ではなく、局所換気扇(トイレ・浴室・脱衣場・階段上部)で換気量をまかなっています。
下の写真が新鮮な空気を取り入れる給気孔。フィルタがついています。
カバーを外すと、孔の大きさも調整できるようになっているのが見えます。
『パッシブデザイン』のコーナーなどでもふれていますが、空気の自然な流れを設計してあげることで、環境にも身体にも、そしてお財布にもやさしい住まいにすることができます。
下の写真は、リビングとキッチンの境にもうけられている棚。
各所の角、棚板のそれぞれに至るまで、角をまるく落としているのがわかるでしょうか?
ここだけではなく、ほぼ全ての角がまるく仕上げられています。
こうすることで怪我などが防げるばかりではなく、室内の明暗のエッジのコントラストが和らいでゆきます。何となく安らげるという評価をよくいただきますが、こんなことも無意識に影響しているのかも知れません。