WORKS 設計事例

カテゴリー:

パッシブデザイン戸建て住宅

福岡市KW邸

仕様

設計期間 2006.06-2006.11
施工期間 2006.12-2007.07
構造規模 在来木造・2階建
敷地面積 605.52平米
建築面積 106.95平米
延床面積 176.37平米

電磁波過敏症の奥さまが少しでも楽に暮らせるよう、土地を探してお家を建ててくださる優しくもたくましいご主人はケミカルに弱い、というご家族のためお宅です。
住まい手の体調を考え生活の質を下げることなく暮らしていただくために、また自然エネルギーの恩恵を大切に使うために、様々な工夫をしました。

 

●お施主さんより●

空さんに全力投球で作っていただきました。
杉皮やモイスボードや麻ウールなど天然の素材が満載です。
そのせいか、家に入るとまるで森の中にいるみたい。
「空気が吸ってもらいにやってくる」と来てくれた人が言っていました。
福岡市のど真ん中なのに森の中というすごいお家です。
前は電磁波で胸が苦しくて2時間おきに目が覚めていたのですが、ここではぐっすり眠れます。
また、頭も痛くならないし、本も読めるようになりました。
というわけで、空設計工房さんには夫ともども感謝の気持ちで一杯です。
本当にありがとうございました。

 

■外観

お庭やアプローチができていなくてまだ雑然としています。広い敷地のこちら側には増築予定があり、それとの間に玄関がくるように計画しています。

屋根:平瓦(石州)葺き
壁:色漆喰コテ仕上げ
外幅木:煉瓦タイル張り
バルコニー:木製 タヤエクステリア塗り
建具:木製気密サッシ・ペアグラス

 

■玄関
少し角をとったアントロモティーフ、数カ所にとりいれています。
左端にみえるのは西側の壁を緑化しようとして張ったネット。

 

西壁緑化の様子、少し伸びてきています。
植えているのは、びなんかずら・つるうめもどき・のうぜんかづら・むべ

 

■外柵
木製(杉)、ウッドロング・エコという長期間メンテナンスフリーの保護剤(しかも無害)を塗っています。西側、利道と水路に向けて、あまりに長い外柵を無機質にしないように、高すぎて圧迫感を与えないように、内側から見ても楽しいようにウェーブを付けてみました。
*ウッドロング・エコ:小川耕太郎∞百合子社

 

■雨水タンク
トイレの流し水と散水用に雨水をためて使います。タンクはウィスキーの廃樽を利用しました。もちろん四つ連結していて、雨水を使い切ったら一定量まで井戸水が入るようなシステムを水道屋さんに手作りしてもらいました。「近頃は組み立てるばっかりやけんねー、大変やー」と言いながらも嬉しそうにしていた水道屋さんが印象的でした。

 

■リビングダイニング
正面のドアの向こうは玄関ホール。対面カウンターでキッチンとダイニングが繋がり、手前のリビングへとゆったり広がっています。
床はダイレクトゲイン用に敷瓦の土間(フローリングとフラット)とカバフローリングオイル仕上げ。腰板は杉オイル仕上げ、壁と天井は珪藻土コテ塗り仕上げ。
珪藻土仕上げは照明がやわらかく反射しとても美しい陰影をつくります。

 

大きな開口にはガラリ雨戸がしまっています。夏場は、日中の輻射や照り返しを跳ね返してくれます。撮影日は真夏で外気温33°でしたが、室内は30°以下に留まりました。エアコンなしのお宅ですが、扇風機だけで夏を過ごせそうです。

 

■薪ストーブ
煉瓦積みの壁の前には薪ストーブが設置されます。
奥さまご推薦の薪ストーブ。とても高性能です。薪は縦置きで上から火を付けるユニークな構造、しかも火が消えてから数時間も暖かさが保たれるほどの蓄熱性があります。暖かさの広がり方がほんわか優しく実に気持ち良いです。是非ともとのご希望で上にはオーブンもついています。
CO2削減に効果の大きい薪です。山の活性化にも日本の山の木で薪を沢山出してほしいですね。ちなみにこちらは造園屋さんとお話をして広葉樹の薪を届けてもらうようになっています。

TONWERK の高蓄熱型薪ストーブ T-ONE
*TONWERK LAUSEN社日本総代理店 青い空

 

■キッチン
金属でできた面はとても「いやな感じ」がするとおっしゃる奥さま。できる限りそれを排除して制作したキッチンです。
しかもその制作はキッチンやさんや家具やさんでなく、大工さんがこつこつ工夫しながら作ってくださいました。すばらしい!

 

もう一方の隅角部はダイニング側から引き出して、新聞のストッカーとして使います。

 

■ゲストエリアの洗面
お手洗い・脱衣とワンルームです。

 

金属が苦手な奥さまのために、タオル掛けやペーパホルダーも木製(:エコ・もの・ファーム)のものを見つけました。

 

■ゲストエリアの浴室
高野槇の浴槽、床は炭化コルクの浴室用タイルです。
冬でもひんやりしないと好評で、よく採用します。

 

■2階ゲストエリアのホール
ミニキッチンと壁から跳ね上げ式のテーブルをこしらえました。
気兼ねなく泊まってもらえるようにという配慮からのリクエストです。

 

■1階 個室
奥さまのシェルターともなる居室です。
この部屋の天井裏や床下を通過する電線は極力排除しました。
壁は部屋うちから珪藻土コテ塗り、石膏ボードt=12、杉板t=30、フォレストボード(杉皮繊維の断熱材)t=20,アサウール(亜麻繊維の断熱材)t=100、モイスt=9.5、エアパッセージシート(通気層付き防水紙)、タングレット(ラス網の代用品)、モルタル下地、色漆喰仕上げとなっています。

 

障子の向こうは土間からデッキへ

 

反対の面はクローゼットと押入杉無垢板の建具が空気浄化までしてくれそうです。

 

■色ガラス
メインのドアや引き戸には明かり窓を付けて色ガラスを入れました。
このガラスは友人の伴侶ステンドグラス作家の高見俊樹さんから分けていただいた
フランス製の吹きガラスです。 配置は奥さまが悩みに悩んで決められました。
その色合いも 自然にできた濃淡も エッチングの跡も すごく素敵です。
*高見俊樹さん

●日本バウビオロギー研究会会報誌「バウビオロギー」No.11に掲載した記事●

化学物質に弱いご主人と、電磁波過敏症の奥さまが少しでも楽に暮らせるよう、たくさんの工夫をしたお宅です。
更地で手に入れられたのは、市内住宅地にしてはまとまった広さの敷地です。エルロッドを使ってダウンジングしてみました。特に悪いところはないようでしたが、いい方にふれる地点が数カ所ありました。その一つのポイント上に彼女の居室を配置することを一つの手がかりに、計画が始まりました。お子さん方はすでに家を出られていますが、お泊まりのお客様も多いのでゲストエリアを明快に分けたプランになりました。
建材については、すべて彼女の接触チェックを受け『いい感じ』のものだけが使用できるという条件がつきました。
外部からくる高周波については金属箔や網で受けてアースし内部へ入れないという一般的な方法で対処する予定でしたしかしアースへ流れていく電流をも感じると言われてしまいます。植物が室内にあるだけでスッとするという彼女の言葉から、内側にある充填断熱材を植物性のものにすることで微弱なその電流を感じないくらいにできるのではと提案しました。しかし結局は金属があるだけで「いやな感じ」がするという主張に金属箔もラス網さえも使わないことに変更となりました。結果的には外側から麻のウールとフォレストボードで120㎜を充填、彼女の居室はさらに30㎜の杉板で囲むという方法で事なきを得ているようです。
内部の電磁波については、銅被覆の電線を使いアースをとる事、配線ルートも普段いらっしゃるところの頭上に通さない、コンセントはすべてアース付きとする事をルールとしました。そして照明は必要最低限の電力で構成、また水道管も宅内配管を極力避けて建物外周に埋設しています。
構造材は福岡県と熊本県産のものを使用し、他もなるべく国産のものを選ぶようにしています。合板も使いませんが構造壁は面材でとりました。透湿抵抗がかなり低いモイス(三菱マティリアル)を採用することができたからです。内装は杉・檜の板と彼女の大のお気に入りである珪藻がほとんどです。外装の色漆喰のみスペイン産のものを採用しました。
太陽熱・雨水利用・屋根散水・壁面緑化・薪ストーブといろいろな試みも実現させていただきました。雨水タンクはウイスキー樽の再利用です。トイレと散水に利用します。
その時々に彼女とともに、得られる一番いい方法を模索しながらの設計・現場となりました。理論だけで構築するのでなく住まい手の鋭い感覚を大切にした一つの実例でしょう。 「入居してからは夫婦とも夜よく眠れるようになり、ゆっくりと安心して暮らしています」との言葉が、大変だった事も忘れさせてくれる嬉しいご褒美となりました。

 

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