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お送りいただいた質問のうち、一般的に参考にしていただけそうなものをご紹介します。
 

Hさんより
新築にあたって土壁や地元のむく材を使用したいと思っています。
冬の対策として、外側に調湿機能のある断熱材を用いようと思うのですが、伝統的な構法に外断熱を組み合わせることは可能でしょうか?


江藤より
土壁や地元無垢材を使用した住宅をご希望のようですね。
ただしそうすると冬は寒いままである事をご承知のようです。その対策で断熱材の外貼りも希望していらっしゃる。
(蛇足ですが、外断熱と言う言葉は基本的に鉄筋コンクリート造に対して使用します。在来木造に対しては断熱材の外貼り工法と言う呼び方をします。)

結論から申しますと、伝統的な工法に外貼り断熱工法の組合わせは可能です。
断熱材について調湿機能のあるもののご使用も可能です。

ここで、断熱材とその使い方についての認識をもう少し広い観点でとらえていただけると、いいなと思います。
寒さへの対策として断熱材を使うことは素直な成り行きですが、断熱材は一年中そこにあります。
考えかたの方向としては、快適な屋内温熱環境を得るために断熱材を活用する、と言うことです。
その使い方にも色々なコツがあり、単に断熱材を付加するだけではかえって建物の構造材にダメージを与えたり、室内環境を悪い方向にもっていったりしてしまいます。
また、伝統的な工法を望んでいらっしゃるベースには何があるのか、をとても知りたいところです。土壁は私にとっても魅力的な建材ですが、現代の尺度で言うと、とても時間がかかる物です。≒お金のかかる事とも言えます。
取り急ぎ、お返事まで。(2002.03.15)



Hさんより
伝統的工法を希望する理由は主に次のようなことです。
・自然と人間にやさしい。
・むくの木や土壁は呼吸をするので調湿機能があり、
・生物としての人間と相性がいい。
・シックハウスの懸念がなく、健康に暮らせる。
また質問なのですが、江藤さんが、単に断熱材を付加するだけではかえって建物の構造材にダメージを与えてしまう、とおっしゃるのは、具体的にはどのようなことなのでしょうか。快適な室内環境を得るためには、どのように断熱材を活用すればよいのでしょうか。


江藤より
伝統的な日本建築の構法にこだわっていらっしゃる理由が良く分かりました。
Hさんのその感覚はとても自然なものであり、ある意味とても正しいと言えると思います。おっしゃるようにその構法は日本の風土にあった、完成されたシステムを持っていると思います。そのシステムというのは湿気(湿度)のパッシブなコントロールです。
高床式の床下は外気と同じ環境にあり、地盤からあがってきた湿気も風が吹けば一掃されます。屋内で生まれた湿気にしても、ひとつは調湿作用のある畳に吸われ、畳の湿気はその下の荒板とその隙間の作用により外部へ排出されます。別のルートでは漆喰でおおわれていても土壁に吸われ 、時間はかかっても外部へ導かれます。そして上部へあがった湿気も無垢の野地板、その上の葺き土、そして瓦の隙間や茅の間を通って外部へ出ていきます。
意図されてそうしてきたかどうかは別にしても、結果的に優れた調湿機能を持った建物に仕上がっています。素晴らしく完成されたシステムが構築されていると言っていいと思います。
しっかりそのシステムが機能していれば木材の寿命も驚く程長くなります。
(数百年の民家はいくつもありますね)
しかし気をつけたいところもいくつかあり、湿気を吸い込む材料であれば水分もしみ込む……屋根からまたは壁からの漏水・雨漏りはよくある事故でした。また「夏をむねとすべし」が形になったものですから、冬は御想像の通りかなり厳しい状況に置かれます。
それを回避するために外壁や屋根の仕上げの下に防水紙を入れるようになりました。いわゆるアスファルトルーフィングです。そうするとぴったり漏水は防げます。
しかし待って下さい。こうしてしまってはその優れた調湿機能が発揮できません。外部に流れる湿気を防水紙で塞いでしまっています。
また昭和29年に施行された建築基準法で、法のかかる地域での建設では「布基礎をまわすこと」をせざるを得なくなりました。これは地震力や風の力に対して建物の抵抗力を強化するためです。その功績は多大なものがありました。しかしこれにより高床式で確保されていた床下の良好な環境は全く得られなくなりました。
これらでお判りのように、完成されたシステムの上に付加価値を付け加えることは往々にして、長所を増やしたつもりが、はじめにあったとても良い特徴を殺してしまう事になっているのです。
と言うことは寒いのを回避するために断熱材を付加することだけを考えていたのでは、知らぬ内に他のところで思いもよらない欠陥がうまれる可能性があるということです。
例を揚げると、そのような、湿気がぬけるのを阻止する方法をとれば、壁の内部で結露が起きてその水分が構造材・・柱や土台を濡らします。濡れた木材は腐敗菌やシロアリが喜んでやってっきます。そして朽ちていくことを促進する事になります。

考え方を明解に整理していただいた方がよりよい住まいづくりができると思います。
つまり伝統的な構法でお建てになりたいのなら徹底的にそれにこだわり、それがたてられる地域に住む。(法的にも、そしてそれが建つロケーションも伝統的構法では大きなファクターになります)冬が寒いといわず 、寒さを楽しむくらいの気持ちで暮らす。もちろん囲炉裏や暖炉・薪ストーブは思いのほか暖かなものです。
はっきり申し上げたいのは、伝統的構法を使うならばそれに徹してください。その他快適性などを求めることが一番であるならば別の方法を採用してください。中途半端な求め方ではどちらの長所も手に入れられません。

住まいに何を求めるのか……
空設計工房が提供していきたいのは、帰りたくなる住まいです。帰ってきてほっとできる住まいです。そのファクターの一ついわゆるソフト部分の家族関係は 、こちらであつかえることではありません。しかしそれを包むハードの部分でお役にたちたいと精進しています。
ほっとできる住まいの条件は、光や風の使い方を始め空間の構成の仕方など建築設計に関わるものの職能としては当たり前ですが、それと同じくらい大切な目に見えないものの事もきちんと機能させられることです。
それは快適な屋内環境です。一つは温熱環境、そして 良質な空気の提供。
機械力を使って温熱環境を保持することは考えていません。建物そのものがその機能を持っているように計画します。
もちろん汚染物質を発するような建材は使いません。できる限り自然素材を使っています。それは住まう人にも地球環境にもいい方向です。
たまさか汚染された時にも力を発揮する換気や通風はふだんの清浄な室内を保つために、そして建物の寿命を延ばすことにもなります。
断熱材の使い方、気密の取り方、換気の計画、通気通風の計画、どれ一つおいても快適環境の実現にはたどり着けません。
そういう方法をベースにして、土壁の使い方を検討する余地は十分にあります。要は湿気の処理の仕方なのです。

空設計工房では、伝統的な構法より発展し問題をたくさん抱えてきたこれまでの住宅の作り方を考え直し、住まいに求められる事を確実に実現できる方法として今のやり方にたどりつきました。
これは特別な方法ではありません。壁・屋根からの湿気をちゃんと逃がせる通気工法、冬はもちろん夏の不快な輻射熱にも有効なしっかりした断熱、その断熱性能を100%発揮できるようにまた上下間の温度差をなくす為にも必要な気密のやり方、通風を考えたプラン、窓を閉めたときにも空気質の確保ができる換気のプラン、そして動力にたよらず快適な室温を得ることができるようにパッシブシステムデザインの考え方を取り入れています。
これらをそれぞれの機能が発揮できるような良いバランスで取り入れるトータルな計画が私たち住宅設計者の義務であり職能そのものだと思っています。 そしてこれらは発展途上であるとも思います。決して今が最高であるとは申しません。解決していく課題も幾つもあります。しかし現状でできる限りの最善の方法であるこ ともはっきり言えます。

完成された機能を持つ伝統的構法に機能を付加していくよりは、現代の工法の中でその良き部分を取り入れていくてだてを考えることの方が失敗がなく現実的だと思います。 
Hさんのご希望は必ずしも伝統的工法でなくとも実現が可能です。
少しでもHさんの住まいづくりに参考になれば幸いです。(2003.03.17)